N高研究部で素粒子分野について学習・研究
⸻簡単に自己紹介をお願いします。
N高等学校ネットコース3年の山下大樹です。N高研究部第1期生で、主に理論物理の素粒子分野について学習・研究しています。第42回 数理の翼夏季セミナーの参加者です。
⸻N高研究部での活動について教えて下さい。
研究部では、理論物理について学習・研究しています。はじめは数学の学習・研究をするため、研究部に入りましたが、数学より理論物理を学習・研究したくなり、物理に変更しました。
私は素粒子物理学か、物性物理学を学習・研究したかったため、物理全体について知る必要があると思い、独学で学習をしました。独学する上で、この3冊は特に参考になりました。
中3のときに初めて買った理工書で、テンソルからは初見ではわかりませんでしたが、途中までは非常にわかりやすかった覚えがあります。
物理を学習して初めての頃、なかば公式集として使っていました。非常に便利で、他の理工書読むときの助けにもなっていました。
これ読んでから、量子力学の教科書が読みやすくなりました。
数学の解析に関する素養があったため、初めの頃は数学に関して戸惑うことなく、本を読み進められました。
また最近では、量子論と重力理論や、超弦理論を学ぶための数学を学習しています。他にも、研究室や研究施設の訪問もしています。
最近では岩手県ILC連携室オープンラボに行ってきました。また、N高研究部としてではありませんが、第42回 数理の翼夏季セミナーにも参加しました。
⸻最近、行っている学習や研究について教えて下さい。
最近は、ホログラフィー原理と呼ばれる概念について学習しました。これはブラックホールの熱力学を考察することによって考えられ、ある時空𝑀における重力理論は、その境界𝜕𝑀における重力相互作用のない量子多体系の理論と等価であるという主張です。
ホログラフィー原理の応用例の一つにAdS/CFT対応というものがあります。これは、d+2次元のAdS_(d+2)時空の量子重力理論はd+1次元のCFT_(d+1)と等価であるというもので、超弦理論のDブレーンを考察することによって考え出されました。量子多体系の量子状態の骨格を与えるのが、量子エンタングルメント(量子もつれ)です。
その量を表すエンタングルメント・エントロピーはこれらホログラフィー原理によると、ホログラフィック・エンタングルメント・エントロピーはプランク長を単位とした場合に、重力理論の時空の極小面積と等しいです。
つまり、プランクスケールの面積要素が1個のベル状態に対応することを意味します。一つのベル状態は1量子ビット分の情報量を担います。
量子多体系は無数の量子ビットの量子エンタングルメントから構成されているが、これはちょうど、重力理論のマクロな時空の最小単位であるプランクスケールのミニ宇宙が無数に集まって構成されることと等価であるといえるのではないのでしょうか。
この主張が正しければ、量子多体系の量子エンタングルメントからマクロな宇宙が創発するといえそうです。
最近、知り合いの超対称性場の理論の研究者が、量子論を情報理論で記述しようという研究がなされているというのを聞いたそうです。おそらく古典論は素朴実在論ですが、量子論は素朴実在論ではなく、実験データとそこから読み取られる情報だけを扱う情報理論だからだと思います。
また先ほども述べた通り、重力理論も情報理論を使って記述しようとされています。過去にはエリック・ヴァーリンデの理論というもので、重力をエントロピックな力(エントロピック重力)として記述する概念的なモデルがあります。最近はこれを読むため、情報理論の学習もしています。
私は情報理論によって、量子論と重力理論を統一的に記述することが可能になると考えています。まず重力理論を情報理論を用いて記述し、その後に量子重力理論を情報理論で記述できるのではないかと考えています。
最後に補足ですが、この議論の根幹であるホログラフィー原理は、まだ実験的に検証された主張ではありません。
人生のルールを知るために、素粒子物理学をはじめる
⸻物理や数学に興味をもった理由は何ですか?またその魅力は何ですか?
小中学生の時から算数や数学が得意だったので、自然に大学数学といったアドバンスな数学に関して興味はありました。それもあって中2ぐらいから、YouTubeなどを活用して、独学で学習を進めていました。
高校受験の時期に、YouTubeでヨビノリの中学数学からはじめる相対性理論をみました。その動画の中で「相対性理論を学ぶことは直感に反することを理屈で受け入れる訓練である」という言葉は当時の私にとって非常に刺激的でした。
これに感化されて「説明できたら、めちゃくちゃすごくてかっこいい!」と思ったのを今でも覚えています。そんな不純な理由で物理に興味を持ち始めました。「物理を学習すればある程度の精度で、未来を予測できるようになるからです。」と答えたほうが受けがよかったかもしれませんが…。
高1の頃に色々あり前籍校を辞め、自分の人生に希望が持てない日々が続きました。そんなある日スポーツの観戦は楽しいのだろうか?という疑問を抱きました。ルールを知らなければ、サッカーで誰かを後ろから押し倒してボールを奪えばいいなどと思い、つまらないと思います。
それと同じで、私が自分の人生がつまらない理由は人生のルールを知らないからだと考えました。人生のルールは様々な定義ができると思いますが、世界の理について知る必要があると考えました。
物理や数学を学習していた当時の私にとっては、世界の理=物理法則で、物理法則を知るには究極の理論ともいえる素粒子物理学だと思いました。そこから本格的に興味を持ち、人生のルールを知ることを目標に、素粒子物理学を学びはじめました。
何かに熱中する人を増やすため、研究活動を続けていきたい
⸻高校卒業後の進路や、やりたいことはありますか?
高校卒業後は大学・大学院に進もうと思っています。その時の私の興味によりますが、KEK(高エネルギー加速器研究機構)やILC(国際リニアコライダー)などの加速器研究所や天体系の研究所などに所属したいです。上手くいけば大学で教鞭もとりたいとも思っています。
また、日本の科学リテラシーの向上の手助けのため、子供向けの科学に関する講演や中高生向けの科学に関するレクチャーなども積極的に行いたいと思っています。少しでも多くの子供たちが将来科学者、研究者や技術者になりたいと思ってもらう環境を作り、その夢が途中で途絶えないような社会にしていきたいと思っています。
⸻将来の目標などはありますか?
全体の大きな目標は、好きなことがあると子供も大人も公言でき、熱中できる社会にすることです。昔に比べるとだいぶましかもしれませんが、いわゆるオタクは、あまり世間に受け入れられていない気がします。
私にとってのオタクとは、好きなことに熱中できる人だと思っています。また、その好きなことの分野ごとの優劣は全くないと考えています。アニメやゲームなどのいわゆる娯楽に熱中するのも良し、素粒子物理学や歴史などのいわゆる学問に熱中するのも良しだと思っています。
私もまだ学生ですが、学生時代に何か熱中したことがある経験は社会に出ても、まったく別の分野に進んだとしても、何か使えるものがあると思っています。
また、親に「好きなことがあるのならそれを磨きなさい。人間一つさえ何か秀でていればそれだけで十分だから。」「好きなことがないなら、できたときのためにいろんなことを経験・学習しときなさい。」といわれるのですが、これに対して私は是とします。
私はこのような主張が広く浸透する、そのような社会を作る手伝いをしたいと思っています。個人的な最終目標は、量子論と重力理論を融合させた理論をつくることです。これに関して、現在いくつかアイデアがあるのでそれをもっと突き詰めるため、より一層、数学や物理を勉強していきたいと思います。
上にあげたような大きな目標を達成するため、IPMU(カブリ数物連携宇宙研究機構)に所属して研究するやKEK(高エネルギー加速器研究機構)で実験・研究するなどの目標があります。一番近い目標は、まず大学に行くことですが(笑)
⸻記事を読んでくださった方に伝えておきたいことはありますか?
もし好きなことがあるならば、一生懸命それを磨いてください。周りが応援してくれなくても、必ず誰かは応援してくれます。少なくとも私は、好きなことを突き詰めている、極めようとしている人が大好きで応援します。
好きなことがない方は、その分野の本を読むなどで勉強したり、いろいろなところに行ったり、セミナーに参加してみてください。きっと何か見つかると思います。見つかるまで探し続けましょう!これ読んでるあなたが熱中できることが見つかりますように。
N高研究部は学園内外の高校生を対象として募集しています。研究というよりアドバンスな内容を学習したいという方も是非応募してください!現在、特に理論物理を学習研究している部員が少ないので是非応募してください!
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